2011年3月1日火曜日

次の覇権

「次の覇権をとる国はどこだと思うか」

ポーランド第一、第二を争う大富豪の家の夕食に招かれ、こんな質問を受けた(ちなみに招かれたのは、たまたまクラスメイトが富豪の息子だったからである)。

「中国だと思います。これにはいくつか前提があります。ひとつは、インターネットに続いて、クリーンテクノロジー革命が起きること。そして、革命が起きた国が、覇権を握ること。さらに、クリーンテクノロジーの成功には、コストと政策がキーとなることです。中国は、国が主導を握って、物凄い意思決定のスピードで、クリーンテックを主導しているのを目の当たりにしました。ローコストは言うまでもないと思います」と回答した。

「中国が勝つと思うのなら、なぜ、シリコンバレーにいたいのか。覇権国家でのビジネスにフォーカスすることこそが、君にとって、正しいキャリアパスだとは思わないのか。」と質問された。シリコンバレーにいたいという議論を述べたものの、心は揺れた。「これはもっともな論議だ」と心の底で思った。

この大富豪、政治と癒着して、カネ持ちになったのではなく、本当に実力で成り上がった方だ。ポーランドが社会主義の時代、ビジネスは許されていなかった。民間ビジネスがないので、マーケットにはニーズがあふれていた。そこで、彼は、次々と社会主義の法律を犯し、ポーランドでビジネスをしていった。コンペティターが0で、マーケットはニーズにあふれていたので、才覚も手伝い、彼は大富豪になることが出来た。趣味でも、ハンティングを楽しむ(家には100対以上の剥製がある)という、日本人の私から見ると殆ど無法者。しかし、それだけに、勘は、とぎすまされていた。

本当に中国は勝つのか。

GSBの卒業生で、中国のプライベートエクイティファンドの創業者、ベン(中国人)から、「俺は電気自動車を製造して、中国発の電気自動車をアメリカで売ることにした。ついては、技術者とデザイナーを紹介してくれ」と電話を受けたのは、2ヶ月前。

2ヵ月後の今日、彼が、シリコンバレーに来た。AAMAというシリコンバレーではそれなりに有名な団体のスピーカーとしての登場。VIPディナーに招待され、話をしていると、

「中国発のアメリカ市場向け電気自動車第一弾は、2週間後に、シリコンバレーで幕を下ろし、登場する。2週間後のお披露目のイベントで、ベンチャーキャピタリストとスタンフォードの学生を大量に集めてくれ。これは、中国発のアメリカでの電気自動車では、第一番目の登場だと思う」と言われた。

これが中国のスピードか。第一弾は、中国既存の型を少しだけ変えたものを持ってきて、第二弾で、先に述べたデザイナー等を使った完全に新しいデザインの車を登場させるらしい。

「中国の電気自動車って危なそうだし、スピードもなくて、デザインも悪いんじゃないの?」と疑問を持たれる方もいるだろう。



しかし、上記がデザインである。走行距離も実は、日本の某電気自動車よりも長かったりする。

価格は、補助金後で、160万円くらい(1ドル100円として、中国中央政府の補助金を加味して計算。地方政府の補助金を入れると、100万円を切る可能性があるが、これは地方政府毎の政策および地方政府とのディールなどによる)。

これで中国メーカーは黒字になる。なお、チェリーの電気自動車(やはり同じくらいの性能とデザイン)について、中央及び地方両政府から補助金が出ると、10万円を切る可能性があると言われている。

ベンの部下でスタンフォードのPHDを持っている技術者に「電池のコストはいくらなのか。シリコンバレーで、リチウムイオン電池を最も安く買おうと思うと、1キロワットアワー当たり400ドルくらい出さないといけないと思う」と話すと、これよりも圧倒的に低い価格を言われた(2割引とか3割引とかいう世界ではないです)。ちなみに400ドルは、シリコンバレーで有名で、財力及びブランドのある某社が、CEO自ら交渉して得た額。シリコンバレーでスタートアップがリチウムイオン電池を買おうとすると600ドルは出す必要がある。日産のリーフの電池の値段は、フォードの元エンジニアに聞いたところでは、400ドルよりもかなり高い値段だと言っていた(単なる噂ベース。詳細不明)。

ちなみに、日本の経済産業省は、日本のリチウムイオン電池のコストをキロワットアワー当たり20万円(資料によっては15万円)として発表している。経済産業省の友人に聞いたところ、「自動車メーカも巻き込んで、きちんと計算した数字」だと話していたが、日本の大企業が本当のコストを開示していないと考えれば、納得がいくだろうか。
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g90225a05j.pdf

例のスタンフォードPHDの中国人に、「それじゃあ、なぜ、大会社は、その物凄く安い電池を使わないのか」と質問すると、「車の構造を、ドライブトレインを含め、根本的に変えないといけない」と話していた。

シリコンバレーで有名な某社は、材料のレベルでのイノベーションを実現することで、その中国の電池よりも更に低いコストを提示していた(守秘義務契約を結んだので書けないですが)。

覇権争いに勝つ国はどこか。

イノベーションのアメリカか、コストと政策の中国か。前回のブログで書いたコスラのいう直感という意味では、中国のベンと出会うたびに体に戦慄のようなものが走る。アメリカのスタートアップでこれを感じたことはない。

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