2010年1月24日日曜日

なぜStanford MBAなのか

「おい、また新しい技術があるぞ。」

また友達から電話がかかってきた。数々のノーベル賞受賞者を生んできたベルラボ。その科学者だった友達(45歳)からの電話だ。

前に電話がかかってきたときは、「太陽電池にくっつけると、太陽電池の効率が1.5倍になり、kWh当たりコストが2分の1になる技術」の紹介だった。「太陽電池業界のインテルになれるか」というビジョンが頭に浮かんだ。そのプロジェクトは今でも遂行中だ。

今度は何の技術なのか。

友達「水をためるパウダーだ。水の中にパウダーを入れると固まってジェル状になる。」
私「砂漠でも出来るの?」
友達「水を含ませたパウダーを砂漠にまぜておけば、植物はずっと生きている」
私「コストは?」
友達「ほとんど0だ。」

今度は、前よりももっと面白い話だ。
すべての砂漠をバイオ燃料の畑にできるのか。
そんなビジョンが、うっすらと頭に浮かんできた。



砂漠は、地価が安い。砂漠は、Cashを生みにくいから、DCFで評価すれば当然地価は安くなる。
砂漠をバイオ燃料畑にできれば、大量のCashを生むようになり、価値があがる。
実現するために必要なコストが、それに見合うかどうか、数字をはじく必要がある。
数字があえば、砂漠を緑に変えられるかもしれない。



しかし、数字をはじく前に人にあって話しをしてみよう。

すぐに動き始めた。

シエラ・ベンチャーズの創業者のピーター・ウェンデル氏、エリック・シュミットのアドバイザーのレイモンド氏、Khosla Ventures、Kleiner Perkinsのパートナーといった面々とランチをしたり、電話で話してみた。

このブログで「悪魔のベンチャーキャピタリスト」として紹介したKhosla Ventures。
「数字をはじいてみて、うまくいきそうだったら、1頁の紙でいいから送ってくれ。投資するか検討したい。ビジネスプランはいらないよ。」
という返事だった。

さらに周りを普段歩いている色々な人とランチをしてみた。
そのうちの一人が、たまたまバイオ燃料業界で世界最大の企業のCFOだった。
彼は、「とても面白い」とプロジェクトチームに入ってくれた。
その彼が、Marketingで最強の人材も連れてきた。

今日は、自分のメンターに連絡してみよう。
Stanford GSBでは、全員にメンターがつく。私の場合は、joint degreeでMBAのほかにMSを取得中なので、ビジネスパーソン及び教授が三人、科学者のメンターが一人つく。

科学者のメンターは、Chris Field。
ノーベル賞を受賞した科学者で、安い土地(Marginal Land)でバイオ燃料畑をつくることを声高に叫んでいる人だ。

それぞれの分野で世界第一人者の人が手の届くところにいる。
それが、Stanford。

「地球上のあらゆる場所で、Stanford GSBの2年生程素晴らしい場所はない」
新しいDeanになったSalonerからのメールだ。

このプロジェクトがうまくいくのかは、もちろん分からない。
しかし、まさに夢のような経験だし、今後どの道をとるにせよ、この過程から学んできたことは、いかせると思う。

それが、私がStanford MBAにきた理由だ。

息抜き

他の学校ですが・・・
http://www.youtube.com/watch?v=tGn3-RW8Ajk

真面目な話題が続きましたので、息抜きに・・・

2010年1月10日日曜日

ハゲタカからの忠告をとるか

「ハゲタカからのご忠告です。本業以外のビジネスに手を出した企業は、必ず潰れます」(真山仁『レッドゾーン』

映画ハゲタカの原作となったレッドゾーンの主人公の台詞だ。ハゲタカからの忠告は、いつでも正しいのだろうか。

コングロマリット・ディスカウント。「投資家は、自分で株式のポートフォリオを組みたいのであるから、投資される事業会社の方で、複数の事業を手がけるべきでない」というハゲタカからの忠告。複数の事業を手がけると、投資する側からは、「何がDriverとなって成長しているのか」「何が問題で利益が落ちているのか」といったことが見えにくくなる。買手に十分な情報がない場合には、(いったい本当はいくらなのか分からないので)買手にそれだけリスクが生じ、それだけ高い値段を払いたくなくなるというのはみえやすい。このことは、ノーベル賞を取得したアケロフ教授のレモンの理論の中でも述べられている(こちらに分かりやすい説明があります)。乱暴な説明だが、中国の屋台でロレックスが売っているとして、仮にホンモノだとしても、誰もロレックス本店と同じ値段は払わないだろう。コングロマリット経営をすると、投資家に情報が見えにくくなるので、それだけ投資家は高い値段を払いたくなくなるのだ。

また、「餅は餅屋」という。

例えば、GMは、自動車のみならず、航空宇宙産業やITなどにも手を出し、(労働組合問題、人事問題、ファイナンス問題などの問題も重なって)潰れてしまったといわれている(詳しくは、『M&A新世紀 ターゲットはトヨタか、新日鐵か?』)。

トヨタ自動車についても、自動車事業のほかに、住宅事業(トヨタホーム)、金融事業(トヨタファイナンシャルサービス株式会社)、ITS事業、Gazoo事業、マリン事業、バイオ・緑化事業などの複数の事業を行っているので、ピュアプレイに戻るべきだという専門家の指摘がある(『M&A新世紀 ターゲットはトヨタか、新日鐵か?』)。例えば、ファイナンス事業に手を出した結果、借入金が大きく膨らみになってしまい(7年前は5兆8000億円くらいだった借入金が、2009年3月時点で は12兆6000億円くらい。もちろん全部がファイナンス事業のせいではないが。)、また、2008年9月のリーマンショックの影響も大きく受けたという のだ。

コングロマリット経営で有名なGEも、2009年3月には、ピーク時(42ドル)の7分の1である一株6ドルになった。リーマンショック後に、ファイナンス部門のGEキャピタルが大打撃を受け、金融事業の見直し、スリム化に着手したといわれているのだ(M&A新世紀 ターゲットはトヨタか、新日鐵か?)。

ハゲタカからの忠告は説得力がある。
しかし、どんな場合にも、本当なのだろうか。

投資家の立場を知るなら、M&A新世紀 ターゲットはトヨタか、新日鐵か?
は秀逸の本だ。私のStanford MBAのクラスメートは、「とても参考になった。学部生ならこの本を読むだけで、投資銀行に内定が出るだろう」と言っていた。

しかし、投資家のトップの人達だけでなく、
投資される立場のトップの人達の意見も聞いてみよう。

例えば、インテル3代目CEOのアンディ・グローブなら何と言うか。
彼は、「経営の神様」とも呼ばれることがある。

アンディ・グローブ:
・「私は、ウォルマートのCEOに、『ヘルスケア事業に進出せよ』とメールを送った。その結果なのか、ウォルマートは、Health and Human Services省のAssistant SecretaryのJohn Agwunobi氏を雇った。」
・「次はGEだ。GEのCEOには、『電気自動車事業に進出せよ』とメールを送った。返事を待っているところだ。」

AppleのSteve Jobsなら何と言うだろうか。

Appleは、もともとApple Computersという名前だったと記憶しているが、この名前をやめて、Appleという名前になったのではないかと思う(もし違っていたらスミマセン)。
なぜなのか推測してみよう。
Appleは、iPODやiTunesを手がけるようになった。
さらに、Appleは、iPhoneという携帯事業にも進出した。
今までの本業以外をするようになった。
しかし、結果はご存知のとおり。
大成功だ。

さて、上に述べたGMやトヨタとの違いはどこにあるのか。

「シナジーのことを言っているのだろう?」という声が聞こえそうだ。

違う。
ほかにも、理由がある。
そのうちの一つが、以前に、このブログで御紹介したストラテジック・インフレクション・ポイントだ。

技術などの飛躍的な進歩が、業界の競争の方程式を根本的に変えてしまう場合がある。新たな競争の方程式にのれた企業は、覇者となるが、のれなかった企業は、大打撃を受ける。

iTunesの例で考えてみよう。

ソフトウェアやIT技術の飛躍的な進歩によって、音楽業界には、ストラテジック・インフレクション・ポイントが到来していた。ナップスターなどのアントレプレナーが出現する。ネットを利用して音楽をダウンロードするという時代が到来したのだ。あせった音楽業界はナップスターなどを訴えて迎撃した。
彼らはスタートアップだったから、既存の音楽業界全体とやりあうだけのリソースはなかった。
しかし、Appleは違う。大企業としてのリソースがある。
iTunesは成功した。
そして、それは、ネットと音楽の融合という新しい業界の流れを見こして、音楽業界にStrategic Inflection Pointが到来すると見抜いたSteve Jobsの先見性によるのだろう。

つまりこういうことだ。
シナジーだけではない。
Strategic Inflection Pointの到来する業界に打って出る。この業界では、既存企業は、変化しないと生き残れない。どんな企業であれ、「変化する」のはとても大変だ。既存企業が、変化がなかなかできなくて困っているところに、Appleのような別業界の大企業が入ってくる。

アンディ・グローブのメールも、これを言っているのだろう。自動車業界とアメリカのヘルスケア業界にストラテジック・インフレクション・ポイントが到来するのだ、と。

いくらストラテジック・インフレクション・ポイントが到来しても、アントレプレナーが大企業で埋まっているマーケットでシェアをとるのは難しい。リソースがないからだ。しかし、自分のそれまでのコア事業とリソースで守られた大企業ならば話は別だ。Appleが、iTunesで成功できた秘訣がここにある。Appleが、もしスタートアップだったら、あの時点での成功は難しかっただろう。

ストラテジック・インフレクション・ポイントの到来を見抜ければチャンスが到来するだろう。しかし、『インテル戦略転換』に述べられているように、これは大変難しい。ストラテジック・インフレクション・ポイント後の業界の新しい方程式を見抜くのはもっと難しい。

そこで、アンディ・グローブに、
・「ストラテジック・インフレクション・ポイント後の新しい業界の方程式がどうなるか」その見抜き方一般論と、
・電気自動車の業界の新しい方程式はどうなるのか
を質問してみた。

「それは私にも分からない。二つくらい上の次元の話だろう。」
という返事だった。

2010年1月6日水曜日

悪魔のベンチャーキャピタリストとのランチ

Stanfordの学生なら誰もが憧れる存在が立っていた。Vinod Khoslaだ。

「Y.I.と申します。」
「Vinod Khoslaだ。」

Vinod Khoslaは、スタンフォードビジネススクールの学生から見ると、オバマと同じくらいヒーローのような存在。
たまに(1年に1度くらい)、教室をウォークインで訪れると、多くの学生達は、最初我が目を疑い、その後、「おー、コスラを見てしまった」という感じで緊張して固まってしまう。

そのKhoslaとランチをする機会に恵まれた。
色々質問してみた。

Vinod Khoslaは、スタンフォードビジネススクールの卒業生(スタンフォードにはWaitlistから無理やり入学したといわれている)。卒業と同時に余り知られていない会社を立ち上げたが、2年くらい後に、Javaで有名なSun MicrosystemsのCo-Founder兼CEOになった。5年くらい後に、このブログでも紹介したKleiner Perkinsに入るためにSun Microsystemsを退職。以来、(やはりこのブログで紹介した)John Doerrと一緒に投資をしてきた。個人資産は、1000億円を超えると言われている(2007年頃のFortuneでは1200億円から1500億円くらいだったような。。。)。クリーンテクノロジーの投資家では、John Doerrと並ぶ巨匠として知られる。

Khoslaは、インド人で顔が黒く、いつも黒っぽい服を着ているので、「Devil(悪魔)」と呼ばれることもある。設立初期の段階でリスクをとって投資をする。そして、上手くいかないと分かると平気で切り捨てる(ファイナンスのリアルオプションの理論からすると当然か)。創業者のチームに対しても、取締役会のメンバーを決める前に、一人一人全員をインタビューして、「出来ない奴」がチームにいる場合には、先に切り捨てる。起業家に対して、ダメなところがあると、遠慮のない厳しく批判をする。そういったところも名前に反映されたのかもしれない。

会う前は、緊張したが、会ってみると、とても「いい人」だった。学校を案内して、
「クリーンテクノロジーに興味のある学生はGSBではどんどん増えています。いらして頂いたので、皆とても喜んでいます」
と言うと、嬉しそうにニコニコしていた。
どんなに厳しい人でも『学生』の前ではガードが下がるということだろうか。

Khoslaは、Kleiner Perkinsを2004年に退職した。その後は、超ハイリスクハイリターンをとることで知られる。このため、当初は、他の投資家から資金を集めて投資するという普通のベンチャーキャピタルのモデルを捨てて、個人で投資をしていたほどだ(その後、クリーンテクノロジーは、とてもCapital Intensiveなので、他の投資家から資金を集めて、投資家の好みに対応したファンドを設立することにした)。

なぜ、超ハイリスクハイリターンをとるのか。その理由は推測だが、恐らく、中国とインドのCO2の排出量の増加を見込んでだろう。例えば、近い将来、中国のCO2の排出量は、現在の全世界のCO2の排出量を上回ると言われている。これだけ物凄い速度でCO2の排出が出ているときに、ちょっとやそっとCO2の排出量を減らす対策をしても全く追いつかないと考えたのだろう。「根本的な解決ができるのは、本当に物凄い技術だけだ」そう考えて超ハイリスクハイリターン戦略をとっているのだと思う。それは、"$0billion and $0million are different."とか「カネを失うのは全くかまわない。だが、成功したときには、見合わないとダメだ」とか「クリーンテクノロジーは、Cindia Effect(中国とインドのCO2排出)を考えたときに意味をなさないとダメだ」という彼の言葉にもあらわれている。

とりあえず、話した内容を以下にまとめてみた。(ランチで聞いた内容と彼の講演の内容が混ざっている)
非常にシンプルで、聞いていると「そうか」と思うのだが、普通はなかなかこういう風には考えられないと思った。

Y.I.「投資の戦略と起業家の戦略のAlignmentはどう考えるのか。技術の莫大なリスクをとるのであれば、成功したときのアップサイドが大きくなるから、リターンは莫大になるだろう。であれば、ビジネス面では、アメリカ人には難しいモノづくりを自分でするのではなく、ライセンスやアウトソースをする等、もっと手堅い戦略をとりたいと考える起業家もいそうだ。それでも個人で数百億円儲けられるのであれば、何もそれ以上ビジネスリスクをとって数千億円を目指さなくても良いと考えるのは自然だと思う。しかし、あなたの投資の戦略では、これを許さないのでは?」
Khosla「技術のリスクをとるということは、必然的にビジネスのリスクは低くなる。今までより技術が圧倒的に優れているときには、マーケットシェアをとるのは難しくない。モノづくりをできる人はゴロゴロ転がっている。教わればいい。ちょっとの時間の問題だ。ライセンスをしている企業は、ポートフォリオにもある。」

Khosla「専門家に頼むととても精密なモデルを使って将来を予測する。だが、精密なモデルの前提は、ダーツの放り投げだ。だから、専門家は間違う。専門家の言う『答え』は当てにならない。だが、専門家の指摘する『問題』は重要だ」

Khosla「専門家のいうことを聞いたとしよう。そうすると、結局、平均点しかとれない(注:他の人と同じことをすることになるので)。平均点に勝つためには、専門家とは違うように考えないといけない」

Khoslaは、ビジネスプランを精査して、デューディリジェンスをするのではなく、『起業家と夕食を食べて、投資を決定する』(傾向がある)と言われている。優れた技術があって、大きなマーケットがあれば、投資をするという印象があったとので、以下の質問をしてみた。

Y.I.「人がダメだったらどうするのか。投資をする前に人がダメだと思ったら投資しないか。物凄い技術で物凄いマーケットでも結論は同じか。MissionaryとMercenaryという基準も大事か。」

Khosla「人がダメなら投資はしない。その場合、物凄い技術は世の中に出てこないからだ。Mercenaryな会社には悩まされることがある。投資した後に気が付いたときには、人を変えるなど問題を解決する。解決できなければ株を売る」

Khosla「私はたくさん調べたうえで、直感に従って投資をする。新しく世の中に出た科学論文は全部読んでいる。技術が、我々の力をもってすれば、3年以内にモノになるか、イノベーションのサイクルを加速できるか、他の人が考えていないようなことか、そういう点に注目しているんだ」

Khosla「『すべてのものが、クリーンに作り直される』本当にそう信じているんだ。家も、もっとクリーンな素材でつくられるだろう(注:彼はCaleraというCO2をCaptureして製造されるセメントの会社に投資した)。このプラスチックのコップも、Renewableな素材でつくりなおされるだろう。このカーペットもそうだ。『すべてのものがクリーンに作り直される』これに賭けたわけだ。賭けが、間違っているかもしれない。だが、自分が、自分の専門とする技術とか強みに従って、賭けをしないのであれば、結局、平均点しかとれないんだ。」

なぜ、スタンフォードがCritical Analytical Thinkingという授業を創設したのか。Khoslaと話をしていて、その理由が分かる気がした。

情報化社会では、「情報をとってくるものが勝つのではない。情報をとってきた人は、平均点で、とって来た情報に対して『Critical Analytical Thinkingと(直感に従った)賭けをし、賭けに勝った人』が本当の勝者なんだ」
Khoslaはそう言っているような気がした。

2010年1月4日月曜日

スタンフォードMBAの授業「社会をどう変えるのか」

スタンフォードMBAの授業をとっている学生が、毎回の授業の内容をレポートするブログがあります。「社会を、ITでどう変えるのか」という趣旨の授業です。そのブログは、以下です。

http://www.powerofsocialtech.com/

最初の方の投稿に、シラバスへのリンクがあります。
シラバスを読むと、授業のコンセプト(どうすればITで社会を変えられるのか)や、スタンフォードのほかのブログへのリンク、また、授業で読むべきとされている文献のリストにもたどりつけます。

ご興味がある方のご参考まで。

ベタープレイス

MBAの日本人の間でも、クリーンテクノロジーに対する関心が高まっています。

合格された方から、
「MBAに合格しました。ブログ読んでます。クリーンテクノロジーに関心があるので、一度会いませんか。」
という嬉しい連絡を頂くことがあります。

お会いして、
「具体的にどういう分野にご興味があるのですか」
と質問すると、
結構頻繁に頂く御返事が
「うーん。ベタープレイスとか?!」

ベタープレイスは、日本でも、雑誌記事に載るなど、注目を集めています。
環境省がバックアップし、元ルイヴィトン日本CEOでハーバードMBA卒業生の方が、日本のヘッドをされています。

どういう企業なのか。
最も注目されているのが、バッテリースワップ。
どういうことでしょうか。
三菱のアイミーブや日産のリーフに代表されるように、電気自動車が注目される時代になりました。
しかし、電気自動車に積む電池は、まだまだ値段が高く、また、充電に時間がかかります。
箱根に旅行するときなど、長距離を旅行する際に、充電が切れると大変です。
そこで、ベタープレイスは、
「電池は私が持っているのを、お貸しします。携帯電話みたいに、使っただけお金を払って頂ければ結構です。充電が切れても大丈夫ですよ。私共のバッテリースワップステーションで、電池ごと交換しますから、すぐです」
というソリューションを打ち出したのです。

さて、ベタープレイスは、どのくらい成功する確率があるのでしょうか。

「当たるとデカイ」です。なぜなら、一度、スワップステーションが全国にできてしまうと、後発企業の参入障壁が非常に高いからです。
ベタープレイスがバッテリースワップステーションを全国に設置するとする。後発企業からすると、バッテリースワップステーションを全国にいきなり設置するだけ資本がある可能性は低いと思われるので、少しずつになる。ベタープレイスは、いろいろな方法で後発企業の参入を妨害できます(例えば、後発企業のステーションの傍でだけ価格競争する)。また、バッテリーにはいろいろなタイプがあるとすると(あるいはベタープレイスが他の企業のバッテリーとのスワップを許さないとすると)、ユーザからすると、全国にステーションが設置された便利なベタープレイスのほうを使うという風になりやすくなります。

しかし、本当に成功できるのでしょうか。

良くある批判が、電池には色々なタイプがあるので、すべてのタイプを揃えないといけないとすると、バッテリースワップは難しい、という批判。また、電池は重いからスワップは難しいという批判。しかし、いずれも技術的に解決できそうであり、私に届いている情報(真偽は不明)では技術的には解決済みとのこと。

しかし、より難しい問題が、ファイナンスだと思います。

ある情報筋(真偽は不明)によれば、カリフォルニアをバッテリースワップステーションでカバーするだけで1000億円が必要とのこと(電池代を含まない)。電池を入れれば、もっともっと凄い金額になりそうです。

そうすると、ベンチャーには難しいのではないか。

リスクの高いベンチャーは、エクイティで調達するのが基本だと思いますが、ベンチャーキャピタルのファンドの規模(大きくても1つで1000億円くらい)を考えると、エクイティでの全額の調達は無理そうです。ヘッジファンドやプライベートエクイティがベンチャーに投資していたときもありましたが、リーマンショックで、シリコンバレーからは殆どが「蒸発してしまった」といわれています。

エクイティでは足りないので、デットで入れるとすると?
実際にも、ベタープレイスは、デットファイナンスを検討しているという噂です。

しかし、ファイナンスの理論によれば、デットとエクイティの比が重要です。 (デットの比を高めれば、金利に伴う節税効果のために、キャッシュフローの期待値が向上し、当初は企業価値が向上します。しかし、あまりにデットの比率を高めると、今度は倒産する可能性が高くなり、倒産した場合のコストの期待値が計算に入るために企業価値は下がります。)

デットとエクイティの比は、ベタープレイスのように、アセットをたくさん有しているビジネスでは、デットの比率が高めになる傾向があります。 しかし、ここで思い出されるのが、有名なイリジウムのケースです。

イリジウムは、日本の京セラの稲盛氏をはじめとした世界のスーパースターを抱え、ファイナンス業界から注目を集めました。アセットをたくさん有するビジネスであり、また、スーパースターが運営していたため、「利益があまり出る前の段階から」ファイナンス業界が大量の資金をデットで貸したと言われています。

イリジウムは、最後には失敗します。

そして、その教訓として、「アセットがたくさんあれば、確かに『ターゲット』となるデットの比は高くなる。しかし、本当にデットの比を高めるのは、利益がきちんと出てからとすべきで、利益が出る前にデットの比を高めてはいけない」と良く言われます。

ベタープレイスが、イリジウムの二の舞にならなければ良いのですが。
ベタープレイスは、まずはイスラエルなど小さな国から順番にビジネスをはじめています。ここで、利益を出して、デットの比を高められるようにすれば、国土の大きな国に打って出れるかもしれません。また、デットのほかに、政府の資金などを入れようとしています。いずれにしても、大量のカネという意味でダイナミックで、かつ、デットの比を高めるタイミングという意味でセンシティブなExecutionになりそうです。

日産は、「ベタープレイスとセットにされて、日本でバッテリースワップ型の車を出すかのように言われているが、そういう計画は今のところない」との旨の発言をしたと言われています。 しかし、その日産も、ルノーの方で、イスラエルでは、ベタープレイスに協力して、バッテリースワップ型の車を出すと言われています。

おそらく「ベタープレイスがイスラエルで成功すれば、他の国での協力に検討するし、失敗すれば、トカゲの尻尾を切るように切ってしまえば良い」と考えているのでしょう。

ベタープレイスが非常に難しく、センシティブなExecutionに成功するか注目です。

ドリームスクール

スタンフォードMBAは、ハーバードMBAとならび、最も人気のある学校。

昔から統計調査では、「(もしどこのMBAにでも行けるなら)51%の人がスタンフォードMBAに行きたく、49%の人がハーバードMBAに行きたい」という結果が出ていると聞いたことがあります。

ところが、最近良く
「スタンフォードMBAに出願しようと思っていて、合格率の低さにびっくりした。カウンセラーからも、時間の無駄だから受けるなって言われた。でもドリームスクールだからどうしよう。時間の無駄かなぁ。」
というような相談を受けます。

こういうアドバイスを外人のカウンセラーから強く受けると、Confrontationの文化のない日本人(若者)は、結構、シュンとなるかもしれません。
しかし、MBAに留学してアメリカ人と議論してきた経験からすると、(クチだけの人にならない限り)アメリカ人に対しては、自信を持って、自分がいかにすぐれていて、受かるポテンシャルがあるのか反論すべきだと思います。例えば、Andrew Groveを見ていても、アメリカ人は、意見と意見を正面から衝突させるConfrontationを大切にします。まるで、弁護士が法廷で主張のすべてを出し尽くすように。

個人のレベルとしては、時間を使うという小さなリスクをとって、高い目標を目指すチャレンジ精神を大切にしたいです。

もっと大きなレベルでは(裏の話)、実は、Vicious Cycleが出来つつあり、流れを変える必要もあるのです。
以下は本当にあった話です。

(アドミッションとの会話)
日本人在校生・卒業生有志:「日本人合格者を増やしてください」
アドミッションオフィス:「出願者数が足りない。日本人はもっとスタンフォードMBAを受けるべきだ。興味がなくなっているのか」

(元ディーンとの会話)
私:「日本人は今一学年3人です。もっと人数を増やして頂けると嬉しいのですが。」
元ディーンのBob Joss:「一学年3人なのは知っているよ。日本のGDPは世界2番目だから、もっと合格者を増やしたいね。ただ、他の国と比べて、圧倒的に出願者数が足りない」

日本人から見ると、「受けても受からないから受けない」
スタンフォードMBAから見ると、「あまり受けてこないので、取る人数を減らす」

このサイクルが決まってしまうと、どんどんStanford MBAの日本人が減ってしまいます。

2010年1月3日日曜日

MissionaryとMercenary

John Doerrについて、補足。

1.投資とポートフォリオについて

ある雑誌記事のインタビューによれば、「投資をする際には、技術、マーケット、チームを見る」そうです。

そして、スタートアップを、「MissionaryタイプとMercenaryタイプ」という観点から見るようです。

それぞれの特徴は、以下のとおりです。(John Doerrの2009年の講演より)



いくつかのシリコンバレーの企業で働いてみました。

実際に、シリコンバレーの企業で働いてみると、「心地よい」と感じるスタートアップは、Missionaryな要素をたくさん持っていました。「カスタマーの視点に立つように」というような指示が末端のスタッフにまで行き届きます。また、仕事をしていても、常にチームのサポートがあります。「ファウンダーだけが良い思いをしている」ということはなく、若くても、結果を出していれば、大切にされます。

逆に、働いてみて「凄いんだろうけれど、ストレスを感じる」スタートアップは、Mercenaryな要素をたくさん持っていました。例えば、「金をもうけて将来楽をしたい」(Making Money、The deffered Life Plan)という発想で、「今を、自分の情熱に従って生きる」という感じがあまりありません。また、何か仕事をしていても、チームのサポートがなく、「●●しておいて」と普通の感覚であれば「奇跡を起こせ」というような指示がとびます(loners)。顧客の立場に立とうという発想もなく、「競争者に勝つために、顧客が●を要求したらその顧客は切ろう」という議論が平気でまかり通ります。さらに、設立間際であるにもかかわらず、「あと7年で市場を全部とる」というようなOptimisticな議論が戦略もなくされます。これを変えようと、頑張っても、ファウンダーが最も強い(aristocracy)ので、筋がとおっていたとしても、なかなか意見が通りません。

Kleiner自体は、Missionaryになりたいのだと思います。例えば、インターネットのトーマス・エジソンと呼ばれるBill Joyやアルゴアがパートナーにいる一方で、大変若いパートナーもいるようです。


2.キャリアアドバイス

John Doerrは、以下のような経験を若いうちに積むと良い、と講演しています。

・Launch a product
・Manage a douzen or more employees
・Learn great management processes from the best: GE, Intel, Amazon, Cisco, Intuit, Google

より具体的には、以下のようなスキルを得るべきだと言います。

・Ability to listen actively, think critically
・Communicate (think on your feet, debating the merits of issues, whether large or small groups)

そして、その理由として、以下のように述べています。
“Ideas are easy. Execution is everything. It takes a team to win.”
従って、「事を成す」ためには、チームをinspireする必要がある。チームをinspireするためには、think on your feetのスキルを使って、行くべき方向にチームを導く必要がある、と言うのです。

他にも、特に以下のようなことを学ぶべきだと語ります。
・Confront problem without confronting others
・Recruit, to sell, to hire and fire, inspire, manage, develop and motivate with tough love
・Extra points for humor

さらにネットワークが非常に重要なので、「毎日10分間ネットワーキングに時間を使うように」と言います。そして、マーケティング、セールス、ビジネスディベロップメントの各ポジションが、ネットワークをするのに最適なポジションだと語ります。

そして、こうしたスキルを身につけた結果、「起業するべきときは、自分で分かる。多くの人にとって、これはSprintじゃない。Marathonなんだ」と言います(上記表を参照)。
勿論、グーグルの創業者のサーゲイとラリーのように、例外はあります。
「もし君が例外なら、僕の講演が終わった後、すぐに来てくれ」とのことでした。

伝説のベンチャーキャピタリスト、John Doerrとは

Kleiner Perkinsの話題をもう一つ。そのパートナーの一人、John Doerrについて。

以前にご紹介したとおり、シリコンバレーでは有名人です(例えば、こちらの記事)。
個人資産は、1200億円。アメリカのBest Leadersの一人にも選ばれました。

クリーンテクノロジーの分野のベンチャーキャピタリストでは、Vinod KhoslaとJohn Doerrが2人の「巨匠」とするのが一般的だと思います(例えば、こちらの記事を参照)

クライナーパーキンスは、2000年か2001年頃からクリーンテクノロジーの領域に進出しましたが、その契機について明らかにしているのが、以下のJohn Doerrの2007年の講演です。

John Doerr2007年講演 (ビデオを見る時間がない方は、こちらに抜粋があります)

この講演では、「私は怖い」と語る最初から感情的で、最後は泣き出してしまいます。

以前にもご紹介したとおり、John Doerrの所属するKleiner Perkinsは、異常なトラックレコードを叩き出してきました。2009年のJohn Doerrの公表によれば、Kleiner Perkinsのトラックレコードは、以下のとおりです。

・Annual Revenue:10兆円
・時価総額:50兆円
・33年間で475件に投資。
・今までに173件がIPO。163件がM&AでExit。

しかし、そんなKleiner Perkinsの力を持ってしてさえ、Climate Changeの非常事態を解決できないかもしれない。だから、John Doerrは、講演中に「私は怖い」と語るのだと思います。

Doerrによれば、エクソン・モービルの『一日』の売り上げは、1000億円を超えます。一方で、Kleiner Perkinsのグリーンテクノロジーファンドの規模は、約1000億円。

「未来を予測するのに最も簡単な方法は、未来を発明すること。二番目に簡単なのは、それについてファイナンスすること」とDoerrは、語ります。未来は予見できないので、それなら、つくりだすのがよい、という趣旨でしょう。しかし、エクソン・モービルの一日の売り上げ(1000億円)や中国のCO2排出量の増加には凄まじいものがあります(詳しくは、John Doerr2007年講演を参照)。Kleinerの力をもってしても、未来をつくりだせるのか「怖い」とDoerrは感じているのだと思います。

先に述べたように、Doerrによれば、エクソン・モービルの『一日』の売り上げは、1000億円超。2007年当時のアメリカ政府のグリーンテクノロジーに関する予算も1000億円程度。この講演の中で、彼は、クリーンテクノロジーの分野では、「政策が非常に大事だ」と語ります。起業家の力だけでは問題は解決できず、なんとしても政策が必要だというのです。そして、具体的に5つの政策を以下の記事で提唱しています。

The Green Road to Prosperity. By: Doerr, John, Scientific American Earth 3.0, 19361513, 2009, Vol. 19, Issue 1


「政策が必要」という言葉通り、Doerrは、アメリカ政府に対して、強いパイプを作り出してきました。昨年2月に大統領に対するアドバイザリーボードのメンバーになったのです(こちらの記事)。

そのインセンティブではなく、結果の方を中心に吟味して、「クリーンテクノロジーに対してシリコンバレーのトップベンチャーキャピタリストは真剣なのではない。政府とのパイプが欲しいだけだ。」とする経済専門家の声もあります。私自身、ある教授から、「クリーンテクノロジーは、近い将来、熱が冷めるだろう。中国とインドの二酸化炭素排出量の増加は、もうどうしようもない。ベンチャーキャピタリスト達が投資しているのも、政府とのコネが欲しいだけだろう」とアドバイスをもらったことがあります。確かに、政府とのコネを得たのは、Doerrだけではなく、Foundation Capitalなどのクリーンテクノロジーに強い他のベンチャーキャピタルファームも同じ。例えば、スタンフォードビジネススクールを最近卒業したばかりのFoundation CapitalのSteve Vassalloも、最近大統領からホワイトハウスに意見聴取に呼ばれたと話していました。

しかし、Doerrがクリーンテクノロジーへの検討をはじめたのが、2000年か2001年頃。その後、環境問題に興味のなかったように見えるブッシュ政権の時代にも、グリーンテクノロジーへの投資を続けています。 本当に、政府とのコネが欲しかっただけならば、ブッシュ政権の時代にグリーンテクノロジーへの投資はしないのではないかと思います。

これは、John Doerr2007年講演で見せた涙を、真実の涙ととるか、単なるパフォーマンスととるかという違いでもあると思います。

Stanford MBA Round 1合格者

スタンフォードMBAのラウンド1の合格者が発表になりました。

私がかつて所属していた弁護士事務所の先輩で、プライベートエクイティファンドに転職した方が合格しました。

やはりこのブログを参考にされたそうです。

これで2年連続ブログ読者が高い確率でStanford MBAに合格しています。統計はとっていませんが、在校生と話す限り、おそらく合格者の10割がこのブログを読んでいると思います。

お役に立てているのであれば、嬉しい限りです。
受験される方は、過去の記事に、合格法をたくさんのせてあります(左側の欄のタグで「MBA留学合格法」をクリックすると表示されます)ので、参考にされて下さい。