2009年2月28日土曜日

Blackswan 2

砂漠で太陽光発電をし、エネルギーを蓄積しておいて、必要なときに放出する・・・
霧の多いサンフランシスコの民家の屋根にソーラーパネルを敷くよりは、素人目には、効率が良いように思えます。

砂漠で太陽光発電というアイディアを実現するのが、いわゆるSolar Thermalです。基本的な仕組みは単純で、太陽エネルギーをレンズ等で集中させて、水等を水蒸気とし、当該水蒸気でタービンを回して発電するというものです。

下の写真は、日経BP(http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090224/187198/)からの引用です(飯山辰之介氏「【技術フロンティア】灼熱地獄の夢プロジェクト」)が、日本でも注目されはじめているようです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090224/187198
Solar Thermalは、オーストラリア、シリコンバレーでは、随分前から注目を集めています。

Solar Thermalの凄いところは、エネルギーを蓄積できるところにあると思います。電気を蓄積するバッテリーやEnergy Storageの技術の水準の(必要性と比較した場合の)低さは、Clean Technologyのネックになっています。Solar Thermalは、電気ではなく、温度の形でエネルギーを蓄積するため、より効率的にエネルギーを蓄積できると言われています。したがって、砂漠で大量に発電をして、夜間を含め、必要に応じて電力を供給することが可能と言われています。

一番はじめに、この技術を利用した企業は、恐らくAusraの前身だと思われます。この企業は、当初成功するかに見えたのですが、政府のClean Technologyに対する援助姿勢の変化により、(コスト面で石炭に勝てなくなってしまい)一気につぶれてしまいました。そこで、誕生したのが、コストを圧倒的に削減したAusraです。このブログでご紹介しましたVenture CapitalistのVinod Khosla(スタンフォードMBA Class of 1980)から出資・経営面でサポートを受けています。
http://www.ausra.com/

Ausraは、景気が悪化する前には、「コスト面で石炭に勝って、アメリカの全エネルギーの90%を供給できる」と発言していたと言われています。

Ausra等Solar Thermalの問題点は、これまで送電線にあると言われてきました。砂漠には送電線がない場所が多く、送電線をひくには、1マイルあたり、約100万ドルが必要であると言われています。

そこで、オバマ政権が送電線を砂漠にひいて、かつ、必要な援助をすれば、Solar Themalが一気に勝つという見方もあります。アメリカの全エネルギーの90%を太陽光発電できるのであれば、確かにBlack Swanでしょう。

ただし、当のAusraは弱気になってしまい、経営陣は、「Solar Thermalが今のScaleで石炭に勝てるとは思えない」という趣旨の発言をされています。オバマ政権は、Loan Guranteeプログラムなども提供していますので、プロジェクトファイナンス等で一気にScaleアップできる可能性もあるのかもしれませんが、経営陣が弱気というのは決定的という「噂」(ソースは学生及びVC)を、よく耳にします。

All Lives Have Equal Value

Bill & Melinda Gates FoundationのCEOであるJeff Raikes氏がお昼の講演に来校されました。

スタンフォードMBAでは、ほぼ毎日各界のリーダー・トップが学校を訪れ、講演、パネル、ディスカッション等をされ、学生は日々大きな刺激を受けています。

Jeff Raikes氏の講演は特に衝撃的でした。

氏の声の大きさ、響きは、聴衆の心を数秒でとらえました。

学生に対しては、農家の息子として生まれて何を学んだか、人生で一番大切だと思うことは何か、Appleでソフトウェアに対して情熱を感じるようになった経緯、マイクロソフトで学んだこと、といった氏自身のストーリーを語られました。

学生の間で、印象に残ったご発言をとりあげてみたいと思います。

「僕は、最初、農家のマネジメントを学びたくてスタンフォード大学に来た(来てみたらUndergraduateにはビジネススクールがなくて困られたそうです)。その後Appleでソフトウェアに情熱を感じるようになった。新しいソフトウェアを見せた時の人の顔の輝きに魅かれた。それで、マイクロソフトに転職することにした。スティーブバルマーは、文字とおりYellして口説いてきた。」

「昔僕は野球チームに所属していた。そのときのコーチは、今はメジャーリーグのあるチームで活躍している。彼と一晩話をしたことがある。僕は、『良いピッチャーを作り上げるのは何だと思うか』『良いキャッチャーを作り上げるのは何だと思うか』といった質問をたくさん彼に投げかけた。彼は、それぞれの質問に対して、『それは、3つの要素で、これとこれとこれだ』といったように非常にシンプルに応えていた。マジメントの本質がここにある。マジメントをする者は、シンプルな言葉で本質をとらえる必要がある。もちろん細かい枝葉の重要性を否定するわけではないが、シンプルな言葉でそれを伝えられないと人はついてこない」

「僕が、マクロソフトとゲイツファウンデーションで学んだ3つのことを教えよう。1つ目は、Work Balanceだ。どんな仕事にも面白い部分と面白くない部分がある。農家の息子として、僕は、このことを早く学び、面白くない仕事をしているときには、そのうち面白い仕事に変わる、と思えるようになった。ビジネススクールを卒業してすぐの学生は、何でも出来ると思っているので、面白くない仕事をしたときのストレスで失敗する人が多い。2つ目は、Prioritizationだ。君たちは、自分が何でも出来ると思っているだろう。そこで何にでも手を出してしまうと、結局最後は何もできない人になる。自分が最もパッションを感じるもので、世の中にValueを生み出せるものを見つけて、それを徹底的に追及するべきだ。その際には、うまく戦略をたてて、Prioritizationをしながら行動すべきだ。3つ目は、Work Life Balanceだ。仕事のほかに、ボランティア・家庭・レジャーは、とても大切だ。自分の中でPrioritizationをしつつ、Work Life Balanceをすべきだ。それが、長い目で見たときの成功につながると思う」

非常に分かりやすく、本質をついた講演でしたので、終了時には拍手喝采でした。

2009年2月22日日曜日

Blackswan 1

http://chemoton.files.wordpress.com/2008/10/blackswan.jpgより引用)



Black swanをご存知でしょうか。


ウィキペディアによれば、

"The Black Swan theory (in Nassim Nicholas Taleb's version) refers to a large-impact, hard-to-predict, and rare event beyond the realm of normal expectations."
を指す、とのことです。

世の中の仕組みを変えてしまうようなイベント(ゲームチェンジングなイベント)といったイメージでしょうか。例えば、ヤフーやグーグル等の検索システムが登場して、人々の情報の取得の仕方が、それまでとは全く変わったことなどが例としてあげられると思います。
やや宣伝気味で恐縮ですが、スタンフォードMBAに留学することの大きなメリットの一つとして、次のBlackswanになりうる動きに関する情報が手に入ることがあげられると思います。
今回は、そのうちの一つをご紹介したいと思います。
例として、車のバッテリーをとりあげたいと思います。
オバマ政権のお金の使い方などを見てみると、オバマ政権が、プラグインカーに注目していることがわかると思います。(例えば下記)
もちろん日本でも注目されています。(例えば下記)
プラグインカー(電気自動車、プラグインハイブリッドなど)が難しいのは、バッテリーのためだと言われていると思います。
そこで、例えば、ビジネスウィークなどは、リチウムイオン電池に注目しているようです。
しかし、例えば、シリコンバレーのテスラモーターズは、シリコンバレーのVCの間の噂によれば、1万5千個(!)近いリチウムイオンを車に搭載しており、コスト以下の価格で車を販売していると言われています(証拠はなく、VCやMBAの学生の間での噂に過ぎませんので信憑性は定かではありません)。
そこで、リチウムイオン電池を上回るBlackswanが存在しないかが問題となります。
候補は色々とあるようですが、例えば、カナダのある自動車メーカと組んでいる電池のメーカによれば、以下の電池を実現したそうです。
・リチウムイオンが重さ752ポンドであるとした場合に、300ポンドの電池(重さ半分!)
・Discharge rateが、リチウムイオンでは、30日間で1%であるところ、30日間で0.02%を実現
・リチウムイオンではフルチャージに3時間以上必要であるところ、3分から6分でフルチャージ可能(プラグインカーでは重要)
・52kWh unitについて、現在は、3200ドルのコストがかかり、MESに至ると2100ドルとなる(あるソースによれば、lead acid batteryの半額であるそうです)。

2009年2月21日土曜日

Guatemala Service Learning Trip

テロリストによる銃器を用いた殺人がはびこっており、マラリアやデング熱のリスクがあり、水に肝炎ウィルスが混ざっており、30年間にわたる内戦が終わったばかりの国。車に乗っていても、銃器を所持したテロリストから暴行を受けるリスクがある。

スタンフォードのアドバイザからリスク回避の手法を学び、肝炎を含めて万全の予防を受けたものの、グアテマラに行く前は、良く眠れませんでした。

スタンフォードMBAでは、GERという制度があり、学生は、住んだことのない国に行って学ぶ必要があります。ヨーロッパや日本などのAdvanced Countriesに行って、首相や大企業のCEOの方々などとお会いすることを選ぶ学生もあれば(Global Study Trip)、グアテマラなどの発展途上国に行って、地元の方々と生活をし、ソーシャルアントレプレナーとともに仕事をすることを選ぶ学生もいます(Service Learning Trip)。

私は、グアテマラのSocial Service Learning Tripに参加しました。グアテマラは、大変貧しい国です。


貧困層に富をもたらすための活動をしていると言われている5つの団体を訪問しました。


1 政府:グアテマラのコーヒー豆について、「森林の木陰で栽培された」ことをプロモーションすることで、非コモデティ化(product differentiation)し、これにより価格競争からの脱却・高価格での販売をめざす。

2 As Green As Its Gets:貧困層のビジネスモデルの変革をめざす。


3 コーヒー業界のGiant(US企業):Supply Chainマネジメントにより、貧困層に富をもたらすとともに、医療システム等の変化をも促すことをめざす。

4 コンサル(NPO):グアテマラのアントレプレナーに対するコンサル。

5 農家のマネジメントを変革するNGO:農家にコンサルをして、より効率が良く、環境にやさしい(例えば森林の焼却を行わせない)農業を教え、かつ、コンサルを受けた農家に対してCertificateを発行している。クラフト等の大企業は、当該農家からコーヒーを購入し、パッケージに当該Certificateを付することで、ブランドを向上することができる。

Tripは、1の政府系機関とのミーティングから始まりました。 ミーティング後、学生たちは、「素晴らしいことだ」と感激しました。

しかし、後日、貧しい農家の方々と話し、現実は単純でないことに気づきました。
そもそも、この団体は、大地主達の利益代表者として誕生したという経緯があり、貧しい農家の人達の利益を代表していません。貧しい農家に対して、Export Licenseを発行しないといった実態が実際にはあるとのことでした。

次の日に、2のNGO(As Green As Its Gets)を訪問し、農家の方々と働きました。



コーヒー豆は、そのままでは、非常に安価です(グアテマラでは数十キロでも数百円だったと思います)。訪問した農家は、7人の子供がおり、安価でコーヒー豆を売っていては家族をとても養えません。最初は、掘っ立て小屋のような場所に住んでいたようです。


As Green As Its Getsは、コーヒーのSupply Chainに注目しました。精製されたコーヒー豆であれば、値段が数倍以上になります。また、飲料としてのコーヒーであれば、値段は数十倍以上になります。そこで、As Green As Its Getsは、Supply Chainの中での農家の位置付の変更を手伝っています(例えば精製されたコーヒー豆を売れるようにする)。効果は劇的で、貧困な農家の収入は確実に上昇し、農家の家屋も毎年グレードアップしているようです。

ただし、ビジネススクールの学生からみると、As Green As Its Getsは、おそらくビジネスをScaleできないので、Guatemalaを変革することは難しいだろうという結論になりました。


3のコーヒー業界のGiant(US企業)は、従業員の労働条件及び健康状況並びに地球環境等について高い配慮をしている農家に対しては、コーヒー豆を、通常より高い価格で購入しています。US大企業の側からすると、良質のコーヒー豆の安定かつSustainableな供給を期待できます。


ただし、現地の貧しい方々の話によると、現実には、US大企業の相手となるグアテマラの農家は、大規模農家に限られてしまっており、貧困層には影響が殆ど及んでいないとのことです。また、設置された病院が見せかけだけで、実際には医者もおらず、診察が行われていない、などの問題もあるとのことでした。

4と5についても、現地の貧しい農家の方々の話では、「Helpになっていない」とのことでした。




学生達は、貧困な村に宿泊し、コーヒーピッキングを行いました。

数十キロに及ぶコーヒー豆をピッキングして、一粒一粒色分けしました。

MBAの学生数人が一日かけて集め、色分けをした数十キロのコーヒー豆は、高くても数百円にしかなりません。


グアテマラの方は、このような重労働を、絶えず、一生続けられます。
コーヒーの色素が指にしみつき、数日間落ちませんでした。







グアテマラの自然は、大変美しく、一面山や森に囲まれ、雲の下に湖が広がります。



また、急斜面の火山に登り、人生で初めて煮えたぎる溶岩を眼前にしました。


溶岩の近くの空気・地面の暑さは忘れられません。





グアテマラでは、突然の地震や火山噴火で村が埋まってしまうことがあります。戦争、病気、貧困、自然災害のリスクと隣合わせという状況で、グアテマラの方々の顔には笑顔があふれ、人々は大変親切でした。


リスクを受け入れ、力強い自然やリスクと共存していくシステムを垣間見た感じがしました。